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あらかじめ失われた世界を再起動させるために【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」36

 

 前回記事「これが令和の全貌だ!」では、『感染の令和 または あらかじめ失われた日本へ』の前半部分(プロローグ〜第三部)について、内容をご紹介しました。

 本書は五部構成なので、三分の二近くをカバーしたことになりそうなものですが、ページ数からいうと第三部の終わりが折り返し点なのです。

 

 つまり第四部と第五部は、今まで以上に内容が充実している。

 では、行きましょう!

 

◆第四部 世界観をめぐる逆説

 

 わが国におけるコンセンサス・リアリティの解体を、いっそう深刻なものとしているのが、今や世界的に見ても、長らく自明に正しいと思われてきた理念が崩れつつあること。

 これについても論じなければ、令和という時代の全貌をとらえたことにはなりません。

 

(1) ポピュリズム・オブ・ザ・デッド

(2)二〇一〇年代末、世界はみな疲れている

(3)香港騒乱が突きつけたもの

(4)中華未来主義というノスタルジア

(5)MMTとナショナリズム

(6)理念にも動作環境がある

 

 2010年代後半の先進自由主義諸国では、グローバリズムがもたらす弊害への反発もあって、ポピュリズムとナショナリズムが台頭しました。

 アメリカのトランプ政権成立、イギリスのEU離脱、フランスの「黄色いベスト」運動などがその代表例。

 

 けれどもこれらの動きは、今やすっかり勢いを失っている。

 といって、グローバリズムが人気回復を果たしたわけでもありません。

 進むべき方向性を見失ったまま、疲労感、いや徒労感をつのらせているのが、先進自由主義諸国のいつわらざる現状でしょう。

 

 「ポピュリズム・オブ・ザ・デッド」「二〇一〇年代末、世界はみな疲れている」は、この状況について論じたもの。

 

 「オブ・ザ・デッド」というタイトルが示すとおり、前者には女神ならぬゾンビが登場します。

 思えばゾンビも、死んでいるのに動き回っている点で、「あらかじめ失われた」存在。

 ポピュリズムとゾンビの結びつきは、なかなかに深いかも知れません。

 

 くだんの状況のもと、目立つのが権威主義の再評価。

 自由主義の時代は終わったのではないか、という話です。

 世界恐慌の直後、1930年代にも同じような風潮が見られたものの、要は「自由と繁栄は密接不可分」という理念が揺らいでいる次第。

 

 1930年代、「反自由主義」の旗手となったのは、ドイツや日本のような全体主義国家、あるいはソ連のような社会主義国家でした。

 今回、脚光を浴びているのは、中国、ないし中華圏。

 「中華未来主義」などという概念まで生まれたくらいですが、経済成長重視の権威主義にこそ未来があるというのは(どこまで)本当か。

 「香港騒乱が突きつけたもの」「中華未来主義というノスタルジア」では、これについて分析します。

 

 さらに一方、経済政策の分野で「従来の通説をくつがえす画期的発想」として注目を集めるのが、MMT、現代貨幣理論。

 

 デフレ不況を脱却するカギとして、わが国でも支持者が増えつつあります。

 ただしこの理論、ナショナリズムとグローバリズムの対立の行方にも大きな影響を及ぼしうる。。

 MMTは解釈の仕方次第で、ナショナリズムを肯定する理論にもなれば、グローバリズムを肯定する理論にもなるのです!

 

 戦後日本は国家否定を出発点とする国。

 「MMTとナショナリズム」で述べたとおり、デフレ不況脱却のカギとして用いるには、ナショナリズム肯定型のMMTが必要なものの、今のままではそちらの方向に行かない恐れも少なくありません。

 

 言い換えれば「理念にも動作環境がある」

 だからこそ、コンセンサス・リアリティの状態について考えることが重要なのですよ!

次のページ第五部 パンデミックと国の行く末

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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